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自治体向け財政インセンティブについて、経営に影響する箇所を確認しておきましょう。
2017年12月28日

2018年度の介護報酬改定は前提改定率「+0.54%」で着地

各サービスの課題や検討すべき論点・対応案の整理が全て完了し、正式な審議報告として2017年12月18日に方向性がまとめられた2018年度介護保険法改正(各種基礎報酬・加算の改定発表は2018年1月下旬の予定)。同日(2017年12月18日)に開催された麻生太郎財務相と加藤勝信厚生労働相の折衝で固まった全体改定率「+0.54%」という数字が独り歩きをしている感も否めない昨今ですが、その折衝議論の中で同時に合意に至っている「−0.5%程度の適正化(≒報酬減)」については、あまり話題にあがっていないのが不思議なところです(=即ち今回の改正においても“引き下げるサービス・加算”と“引き上げるサービス・加算”があり、そのトータルとして+0.54%に着地する、という意味)。

中でも“引き下げるサービス”として現在、真っ先に槍玉に挙げられているのが、過去にも記事に取り上げてきた“大規模型デイサービス”や“訪問介護の生活援助”。

該当する事業経営者は1月末に発表される数値が気になるところかと思いますが、実は次年度以降、介護経営の収益面にインパクトを与えてくるかもしれないもう一つの要素、即ち“自治体に対する財政インセンティブ”について、あまり事業者の注目が集まっていないようにも感じられます。

そこで今月は、“自治体に対する財政インセンティブ”情報の中から現時点でおさえておくべきポイント・情報を選択してお伝えしてまいります。




先ずは“前提知識と”して、、、、財政インセンティブに関する財源議論の話。

今年(2017年)5月に成立した改正介護保険関連法の中に含まれ、来年度(2018年度)からの導入が既に決定していた「自立支援や重度化防止に取り組む保険者への財政インセンティブ」。当初はインセンティブとしての効果を高めることを目的に、現状の介護保険制度で国が給付負担を行っている25%の中の5%分として位置づけられている「調整交付金」を基本財源とし、「頑張ったor成果を上げた保険者に多く調整交付金を振り分ける」形式でのインセンティブ付与案が検討されていました。

しかしながらこの案、換言すれば「成果があげられなかったor国の求める活動を実行出来なかった保険者の介護保険財源は減額されてしまう(調整交付金の全体予算は一定なので)」即ち“ディスインセンティブ”と言われる現象も同時に起こる事になってしまうこと、また、「そもそも調整交付金の役割は別の意味合いとして明確に存在しており、それらを財政インセンティブに流用すること自体おかしいのではないか」という正当な理屈も含め、各自治体から猛反発が起こっていました。

結果としてはこの議論、前述の大臣折衝(2018年12月18日)において、「次期(第7期)においては調整交付金の財源活用は行わない」という急転直下の合意で終結。その後、22日には同インセンティブを運用するための新たな交付金予算として“200億円”が設けられることが正式に閣議決定されました。

これにより、第7期は“ディスインセンティブ”というリスクが発生しないこととなり、反対していた多くの自治体にとっては、文字通り“胸を撫で下ろす”結果となったようです。しかしながら今回の決定は“様子見”“先送り”的な位置づけに過ぎないとの意見もあり、事実、「調整交付金の活用については第8期(次々期)に向けて引き続き検討する」こととなっています。

その意味では、感度が高い自治体等は3年後も見据えながら積極的に次期よりチャレンジしてくる可能性もあり、事業者としては管轄自治体の動きをしっかり見据えると共に、「3年後には調整交付金活用となるかもしれない(≒各自治体が今以上に本気になるかもしれない)」という時勢も視野に、本内容を注視しておく必要があるかもしれません。




特に介護経営に直接的影響を及ぼすかもしれない“インセンティブ”項目とは

さて、上記状況からスタートする“財政インセンティブ”ですが、では、実際に交付金を配分するにあたり、自治体の取り組みの優劣をどのような基準で評価・判断するのか?という点については、実は、今年の11月10日に開催された介護保険部会において“評価指標案”が既に提示されている状況です(正式決定は今年度末の予定)。

現時点での評価指標案は、全部で79項目(対市区町村向け評価指標が59項目、都道府県向けが20項目)。その多くは都道府県・市区町村・地域包括支援センターによる“自助努力“項目となっていますが、中には管轄区域内の介護事業者による成果により評価される、謂わば、市区町村と事業者による“共助努力”的項目も存在しています。

ここでは今後の事業者の経営にも影響を及ぼすかもしれない、後者の“共助努力”的項目の内容を見ておきましょう(大きくは4項目です)。

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【その1】
地域密着型通所介護事業所における機能訓練・口腔機能向上・栄養改善を推進するための取組を行っているか。

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上記項目についてはあくまでも自治体に対して“推進するための取り組みを行っているか”が問われているのみであり、現時点においては“取得率”“取得増加率(or増加数)”等の定量的な結果までは求められていません。

ただし、この“取り組み”の結果=各種加算の取得、と仮定した場合、自治体によっては「“機能訓練加算”“航空機能向上加算”“栄養改善加算”を取得している事業所には、独自のインセンティブを付与する」等の仕組みの導入を検討するところも出てくるかもしれません。その意味でも、地域密着通所介護事業の経営者は、頭の片隅に置いておいた方がいい情報かもしれないな、と感じる次第です。

では、次の内容を確認します。

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【その2】
居宅介護支援の受給者における「入院時情報連携加算」及び「退院・退所加算」の取得率の状況はどうか。

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この項目においては、明確に“取得率”という言葉が謳われています。となると、上記【その1】以上に“加算を取得している居宅介護支援事業所には独自のインセンティブを付与する”という仕組みを導入する自治体が出てくるかもしれない事は、容易に想像が出来るのではないでしょうか。

最後は類似の内容として、2つ続けてみてきたいと思います。

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【その3】
一定期間における、要介護認定者の要介護認定等基準時間の変化率の状況はどのようになっているか。
【その4】
一定期間における要介護認定者の要介護認定の変化率の状況はどのようになっているか。

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これらは恐らく「一定の起算日を設定し、Before・After1で改善、もしくは改善につながる変化が起こった」という点で評価が行われるものと思われます。分かりやすい参考例としては、神奈川県川崎市にて行われている「かわさき健幸福寿プロジェクト」が挙げられるかもしれません。例えば同市では、7月1日を起算日と考え、「平成29年7月1日」と「平成30年7月1日」における「1. 成果指標」を比較する事で、「2. インセンティブ付与(予定)」が行われることになっています。

(下記は「第2期(平成29年7月~30年6月)かわさき健幸福寿プロジェクト要介護度等改善・維持評価事業実施のご案内」より抜粋)

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1. 成果指標
    ◆要介護度
    平成29年7月1日時点と比べて、期間満了点で改善した場合
    その他、改善に至らなかった場合であって、同一の要介護度を一定期間を超えて維持した場合
    ◆ADL等(変化を測るため、認定調査票における能力評価の調査18項目を指標として用いる)
    平成29年7月1日時点と比べて、期間終了時点で改善した場合
    (ADL改善の評価は、直近の要介護認定時に、本市の認定調査を受けている方に限ります。)

2. インセンティブ付与(予定)
    ◆報奨金 5万円程度 (「要介護度の改善」又は「ADL等の一定以上の改善」があった場合)
    ◆市が主催するイベントにおける市長表彰
    ◆成果を上げたことを示す認証シールの交付
    ◆市の公式ウェブサイト等への掲載
    ◆事例検討会等における公表
    (※)報奨金等については、市議会における平成30年度予算議案の議決を要します。

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今後、様々な自治体で上記のような仕組みが導入されるかもしれない、という意味において、要注目の情報(内容)ではないでしょうか。




“インセンティブありき”ではなく、自社の理念やビジョンを照らし合わせて検討する事が重要。

以上、簡易ながら、ポイントのみを抜粋してお伝えさせていただきました(更に詳細の情報を確認されたい方は2017年11月10日に開催された介護給付費分科会の資料をご確認下さい。特に地域包括支援センターを受託している事業者は熟読されることをおススメします)。

前述の通り、次期(第7期)は財源が交付金となったことを背景に、「頑張った自治体には上乗せで交付金を振り分ける」、換言すれば、「現状維持でも財源的にマイナスになる訳ではない」という状況になると考えられ、その意味では「まだ積極的に取り組まなくてもいいだろう」と考える自治体も相当数出てくるのではないかと思われます。しかし、介護事業経営としては、“インセンティブがもらえるからやる・やらない”という軸のみで判断すべきではなく、あくまで「自社の理念を全うし、ご利用者に対して、より高い価値を提供するために何をすべきか」ということを最優先で判断すべき、ということは言うまでもありません(これは、2018年度報酬改定における対応についても同様(=自社の理念に沿った意思決定)のことが言えるでしょう。その観点からの判断でないと、職員からの賛同も得にくいことも含めて)。

そのような視点のもと、国の資料に早めに目を通しつつ、「自社としてはどう考えるか?」について、先手先手で社内議論を始めていかれる事を是非、おススメする次第です。私たちも今後、有益な情報を入手出来次第、どんどん情報を発信してまいります。





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