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先進介護事業者のビジネスモデルに学ぶ
2015年04月28日

いよいよ第6期がスタート!

4月下旬になっても未だQ&Aが出揃わず、事業者のみならず行政側も大混乱に陥っている2015年4月の介護保険法改正。先行きに不安を感じ、次のアクションを模索している介護事業者が大多数存在する中、他方では、既に自社のあるべき姿・ビジョンを確立し、法改正に翻弄されずに前進を始めている介護事業者も全国に存在しています。今回のニュースレターでは、独特のビジネスモデルで地域や職員からの信頼を獲得し、安定的な成長を遂げている、北海道のある事業者、A社・S社長の事例をご紹介させていただきます。




明快なコンセプトのもとで事業拡大を展開

A社は現在、北海道某地区においてリハビリ型デイサービスを6施設展開しています(小規模・通常規模)。

同社の発想がユニークな点は幾つも在りますが、中でも「無理に水平展開せずに、縦に深掘りする」というコンセプトを明確に打ち出している点に、私は大変興味を覚えました。

「横へ横へと拡げようとすると、“サービスの質”と“ヒトの質”との狭間の中で悩みが膨らみ、企業としてのジレンマに陥ったり、理念を重視した経営が難しくなってしまいます。他方、だからと言って同じ規模のまま事業を継続したとしても、職員の処遇改善どころか、ますます厳しい環境に喘ぐことになる。だから私たちは、展開エリアを絞り込み、その地域を“深掘り”するという方針をとっています(S社長)」

では、彼が言う“深掘り”とはどのようなコンセプトなのか?大別すると、そこには下記の通り、2つの切り口が挙げられます。

1. 「既存のご利用者の満足を更に高め、リピート及び顧客紹介の促進につなげること」
2. 「自社の保有するノウハウ(ソフト)を、地域の別の顧客に向けて提供すること」

1. に紐づけたサービスとしては、例えば、彼らが毎週土曜日(デイサービスの休館日)に開催している保険外サービス「コアトレ」が挙げられます。いわゆる、介護保険枠外の自費によるサービス提供なのですが、彼らのスタンスが非常に明快なのは、「介護保険の見込顧客を増やすこと」よりも、「もっと頻繁に通いたい、とお考えの要支援1・要支援2のご利用者の方々に、プラスアルファで通える日を格安で提供したい」と考える、いわゆる「既存顧客の満足度向上」にウェイトを置いている点にあります。そのため、サービス開始当初より営業活動は行わず、既存のご利用者への声掛けのみで始めたそうなのですが、今ではご利用者からの口コミで新規顧客(要支援者もいれば、(旧)2次予防対象者も)が増加し、結果的に、介護保険サービスの見込顧客群が組成される状態に至っています。

また、2. に紐づけたサービスとして特に興味深いのは、「ゆめスポ」という子供向けの運動指導サービスです。

ゆめスポでは、デイサービスが終了した夕方~夜の時間帯に幼稚園から小学生に至るまでの子供を集め、高齢者に提供している「運動指導」を行っています。しかも、ゆめスポに通う子供たちに対しては、小学校まで迎えに行き、終了後、自宅まで送る送迎サービス付き。加えて、幼稚園や小学校の終業時間はデイサービスの終了時刻よりも早いので、一旦、小学校まで迎えに行き、デイサービスの終了時刻まで別の場所で子供たちを預かった後、デイサービスに子供たちを連れていってサービス提供を行う、という、とても丁寧な方法を採っています。更に、高齢者に対する運動指導で培ったサービスノウハウを活かし、3か月に一度の定点調査を実施。その中で子供の成長を定性・定量の面から評価し、例えば、「お子さん、3ヵ月前に比べて、走り幅跳びの記録が50㎝も伸びましたよ。素晴らしい成長ですね。」等と報告を入れるそうです。学童保育より遅い時間まで預かってもらえるだけでなく、子供の運動能力を向上させてくれている、という意味においても、子供を持つ親にとってはとてもありがたいサービスだといえるのではないでしょうか?




保険外サービスをうまく機能させる「カギ」はどこにあるか

ご紹介させていただいたもの以外にも様々な取り組みを行う事で、地域を文字通り「縦掘り」しようとしているA社ですが、特に上記2点の活動については、姿勢やコンセプトという点も含め、多くの介護事業者にとって参考になるのではないか、と思い、とりあげさせていただきました。また、同社は同時に、人財に対しても「職員の給与をもっと上げていきたい」「せめて、子供2人を大学に通わせることが出来るぐらいの年収が確保できるような仕組みを構築したい」というこだわりのもと、頑張る社員については他事業所と比べても高い給与を得る事が出来る報酬制度も導入しています。そのような法人の姿勢を職員に明快に打ち出し、実践しているからこそ、このような保険外サービスの事業もうまく職員に受け入れられ、サービスとして確立出来ているのでしょう。

「利益を最大化させるために保険外サービスを増やす」という企業側の論理は勿論、とても重要な視点ですが、その視点だけで事業拡大を推し進めていけば、いつか職員が疲弊し、組織にひずみが生じてくる可能性(リスク)も十二分に考えられます。そう考えると、保険外サービスをうまく機能させていくためには、“顧客”と“職員”の両方の視点から仕組みを形成することが何より不可欠な要素だと言えそうです。

今後、新たに保険外サービスの展開を検討されている事業者も数多くいらっしゃるかと思いますが、是非、このA社の事例から、何かを感じていただければと思います。

我々としても今後、有益な情報・事例が全国から入り次第、皆様にお届けしてまいります。




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