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新たな処遇改善の議論動向について確認しておきましょう
2021年11月30日

岸田政権発足後、新たな処遇改善が実施されることに

2021年10月4日に岸田文雄総理が誕生してから約2か月。「成長と分配の好循環」を標榜する岸田政権として様々な施策が投下される中、我々の業界に対しても再び「介護職員の処遇改善」が実施されることとなりました。

「1名あたり約3%(約9,000円程度)の処遇改善」という大枠は決まっているものの、配分の範囲やルール等、詳細は今後の議論により決定されることになる訳ですが、今回はあらためて本施策が実施されるに至った背景や根拠、及び雑駁ながらそれらの施策実施において注視すべきポイント・懸念点等について確認してまいります。




「新たな処遇改善」その背景・根拠とは

それでは早速、内容に入ってまいりましょう。
先ずは大前提として、過去からの処遇改善施策の流れを確認しておきたいと思います。

※下記のグラフをご確認ください

https://carebp.com/img_useful/img_116_1.jpg

法人内の配分ルールであったり、或いは地域によっては「現場の実感覚とは隔たりがある」とお感じになられる方も中にはいらっしゃるかと思いますが、注意書きに記載されているポイントを押さえた上で上記表を確認する限り、「過去10年に亘り、全体として約75,000円の処遇改善を実施してきた」という実績が今回の厚生労働省の整理です。

この数値を基に単純に12倍すると90万円、即ち年収ベースで約90万の処遇改善が過去において実施されてきた、という訳ですが、「それでも今なお、他産業等と比較しても決して十分なレベルには至っていない」というのが今回の処遇改善の背景・根拠となっています。

※下記のグラフをご確認ください

https://carebp.com/img_useful/img_116_2.jpg

上記グラフを勘案する中、「介護分野の職員」の平均賃金は直近の令和2年度で「29.3万円」、同保育士は「30.2万円」となっています。今回の処遇改善施策により「先ずは保育士(女性)と同水準」にまで持ち上げていく、という訳です(因みに、「保育士(女性)と同水準」というのが今回の3%(約9,000円)の根拠となったかどうかは定かではありませんが)。

以上を踏まえ、次に筆者が本テーマにおいて感じるポイント・懸念点について、雑駁ながら代表的なものを3点挙げさせていただきたく思います。




「新たな処遇改善」介護経営者としておさえておくべきポイントとは

先ず1つ目のポイント・懸念点として挙げられるのは、財源的な側面です。

新・厚生労働相に就任された後藤茂之議員は10月18日、「この賃上げを恒常的なものとすることも、きっちりとお約束させて頂くように最終調整をしている」と表明されました。勝手換言するなら、「来年度(2022年度)分の処遇改善予算(厚労省資料によると約1,000億円)は介護報酬の枠外の財源(=昨年の新型コロナ対策予算の余剰金・繰越金)で準備するが、再来年度(2023年度)以降については介護報酬に織り込む方向で検討する」と理解しても差し支えないのではないかと思われ、そうなると第1号被保険者の介護保険料や利用にあたっての自己負担等にも影響が波及してくることは必至です。この辺りの影響予測を含め、財源確保策については事業者として注視しておく必要があるでしょう。

次に2点目は、法人管理業務における事務負担増大、という側面です。

今回の新たな処遇改善と、従来から存在する「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」との整合性をどのように整理するか(=配分対象者や配分ルール等を含めて)?その方向性によっては今以上に煩雑な事務業務が発生することも考えられ、「業務効率化」「事務の簡素化」という、介護経営にとって非常に重要なテーマと逆行してしまう可能性もある、という懸念も想起されます。経営者としてはこの点も注視しておく必要はあるでしょう。

そして最後、3点目は、「2024年度介護報酬改定」に向けた影響、という側面です。

コロナ禍での実施となった2021年度介護報酬改定においては、「報酬配分の最適化」や「給付と負担のバランス」等の問題の多くが先送りとなっており、それらが2024年度の報酬改定で議論の俎上に上がることは現段階では既定路線となっています。その上で、もし、2023年度以降の処遇改善予算が介護報酬に組み込まれた場合、当然ながら介護報酬の全体予算は増大となる。ただでさえ「介護経営にとって、2024年度報酬改定は厳しいものになる可能性が高い」という懸念の声があがる中、今回の処遇改善がどのようなマイナス影響を及ぼすものになるのか?(≒事業者報酬の引き下げに拍車がかかるのか?)、経営者としてはこの辺りも注視しておくべき必要があるでしょう。




「木を見て森を見ず」にならないように

以上、今回の「新たな処遇改善」における背景や根拠、そして、現時点で懸念されるいくつかのポイントについて雑駁ながら解説させていただきました。

本施策の詳細は恐らく2022年の1月~3月に開催される「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議」にて明らかになるものと思われます。事業者としてはこの時期を念頭に早め早めに情報収集を行う必要があろうかと思いますが、その一方で、このテーマは決して小さいものではないものの、「あくまで介護経営の一要素に過ぎない」という冷静な視点を併せ持つことが必要です。

介護経営者としては今回のような行政動向に目を配りつつも、より大きな視点に基づいた「これからの介護経営」に関するグランドデザインを描くことを強く意識する必要があるでしょう(それらが人財確保に大きなインパクトを与えることは明らかです)。経営者としては決して「“木を見て森を見ず”にならないように」・・・・我々も今後、新たな情報が入り次第、皆様へ迅速にお伝えするよう努めてまいります。

※上記内容の引用元資料はこちら

全世代型社会保障構築会議(第1回)・公的価格評価検討委員会(第1回)合同会議

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kouteki_kakaku_hyouka/dai1/gijisidai.html

令和3年度厚生労働省補正予算案の概要

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/21hosei/






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